私がニュージーランドを離れられない理由 後編

前回に引き続き、エピソードを交えて、私がニュージーランドを離れられない理由をご紹介していきます。長くなりますが、読み終えた後に、何かインスパイアされるものがあると幸いです。

エピソード 4 ; 「教えないで!」

ニュージーランドの学校教育のお話です。

私には二人の娘がいますが、娘たちにはニュージーランドの学校教育で育てたいと思っています。娘たちはニュージーランド生まれで、日本の学校に入ったことがありませんので、ニュージーランドの学校の方がいいのか、日本の学校の方がいいのかは断定できません。

しかし、日本と大きくかけ離れたニュージーランドの教育方針は、私と妻にとって共感できるところが多いですので、ニュージーランドで教育を受けさせたいと思っています。

ここで学校であったエピソードを紹介します。

長女が小学校に入学してすぐに、参観日のようなものがありました。そこで先生が生徒たちに自己紹介を書かせました。長女はMy name is Hannah. I am 5 years old.と書きたかったのですが、両親が日本人ですので、英語が上手くありません。文頭のMは小文字。単語と単語の間にスペースはなく、スペルも間違っています。前日の家で私が教えた直後でしたので、私は「違う違う、間違ってるよ。ここはこうだよ」と言ってしまいそうになりました。

我慢できずに私が教えようとすると、「何も言わないで、教えないでください」と先生に止められたのです。「そうか、間違いを指摘するのは先生の役割だ。すいません」と思っていましたが、それは違いました。

間違いだらけの娘の答えに先生は「良くできました!素晴らしい字だね!」と褒めちぎり、なんと答えを教えなかったのです。「おいおい、間違いを指摘して正解を教えてやってくれよ。それが先生の役目だろう?」と不審に思いながら授業をみていました。

文章を書く練習を何度か繰り返していくうちに、生徒同士で答えを交換し合う時間になりました。先生は正解の生徒の答えをみんなに見せ、「◯◯君の答えは本当に素晴らしいよ〜」とだけ言いました。生徒たちは自分の答えと◯◯君の答えを比べてみました。長女も真剣な眼差しで見ていたのを覚えています。

その後、先生はまた同じ問題を出しました。娘は自分が書いた文章の間違いに気づき、自分で修正して正しい文章を書くことができたのです。そしてそれを見た先生は、前回以上の大きなリアクションで褒めちぎりハイタッチ。娘も満面の笑み。間違いを指摘しなくても、先生と娘との意思が通じ合い、娘が自分の力で正しい答えを見つけた喜びを感じた瞬間でした。僕がその時に受けた衝撃は今でも忘れられません。悪い生徒の典型で怒られ役の不良生徒だった自分の小学校時代には考えられなかった教育指導法でした。

生徒の間違いを決して間違いと言わない
間違いの中にも良いところを見つけそれを褒める
間違えること咎めることなく、それを良しとし、間違いから学ぶ癖を身につけさせる。
正しい答えを教えるのではなく、生徒自身に考えさせ発見させる
自分で出来た喜びを自ら生み出す環境作り。
インプット主体でなく、アウトプット主体の教育

もう全てが驚きでした。これはまさに大人の世界でも通じるもの。すぐに答えを教えてしまうよりも時間はかかるかもしれませんが、じっと出来るまで信じて待つ。それが将来的には「自分でできるようになる」にもっとも近い方法なんだと思います。

その他にも日本の学校との大きな違いとして

決められた教科書がない → 生徒みんなが同じものを学ぶわけではない
小学校の入学は生徒の誕生日による → 一斉同時にスタートではない
カリキュラム(ほぼ)がない → 生徒ひとりひとりの成長スピードの方を重視
テストがほとんどない → テストへのストレスがない
学業評価は他の生徒との比較よりかは、過去の自分からどれだけ成長できたか
→ 他人と比べない。
などがありますが、皆さんいかがでしょうか?

最後に私の娘が、ドラえもんをみて言った一言

日本はテストでなんで0点取っちゃいけないの? 0点だったら自分が何が出来てないかが分かるのに。のび太はいつもラッキーじゃん。

エピソード 5; 「COVIDー19」

私もこの新型コロナウイルス(COVID-19)がなければ、今のブログなんて始めていなかったかもしれません。世界中の人々を危機に陥れているコロナですが、日本での報道でご存知の方もいらっしゃるように、ニュージーランド世界で最もコロナ対策が上手く行った国のひとつです(現在のところは)。

ジャシンダ アーダーン首相は、世界でもっとも注目されているリーダーのひとりとして、時の人となっています。首相が彼女でなければ、また違った形になっていたかもしれませんが、彼女のリーダーとしての問題解決能力はとても参考になりますので、少しだけご紹介いたします。

ここでお話しするのは、政治的なお話ではなく、問題解決方についてです。昨年のクライストチャーチでのモスク襲撃テロの時も同様に、彼女の問題解決能力の高さやリーダーシップ、そして実行の速さが注目されました。

「前例にとらわれず、新しい決断をスピーディーに進めていく」そして「周りを巻き込むムードを作るのがうまい」と感じます。モスク襲撃も今回のコロナも前例にないこと。「前例に基づいて…」「前例がないから…」と二の足を踏む発想すらなく、ゼロからの発想でアクションを起こしながら解決していくことに長けた人だなと思いました。

ちょうどタイミングよく、私が「ビジョンドリブン」や「デザイン思考」を勉強しようと直感と論理をつなぐ思考法という良書に出会い、創造的問題解決について深く共感し、回転数の速い世の中ではこの思考ではなくてはついていけないと思っていた矢先に、コロナショックがやってきました。

彼女の(いや彼女だけではなくニュージーランド政府が)行ったコロナ対策はまさに創造的問題解決。「明確なゴールを見据えて、とりあえず行動を起こしてみる。行動を起こしながらより良い手法へ修正や工夫を重ね、短期間で成果を出す」これは、子供が遊びながら学ぶということや、運転マニュアルをいくら読んでも、実際に乗って練習しなければ、自動車の運転は上手くならないのと似たような発想です。

そこには少々のリスクはありますが、「何もやらないよりかはマシ」という考え。「リスクや失敗を恐れるがあまり、慎重になりすぎて結局何もできない。またはやったとしても時すでに遅し」では今の時代は通用しないという考え方です。

創造的問題解決は、ビジネスの世界でも比較的新しい思考法ですが、若いアーダーン首相には、その能力が自然と伴っていたんでしょう。小さなお子さんのママ首相というのも、子育てから学んだのかもしれませんね。

実はとってもスローなニュージーランドのお役所仕事なのですが、このような危機的状況では、「やればできるじゃん!」と思わせるほどの対応の速さも特筆すべきことのひとつです。

その例がWage Subsidy、いわゆる助成金のことです。日本と比較して大変申し訳ございませんが、私の日本に住む友人からも「手続きが複雑でとても時間がかかる」等の声をたくさん耳にしました。人口500万人程のニュージーランドと日本とを比較することはナンセンスなのかもしれませんが、個人事業主の私の場合、インターネットでの数分の申請の後、4日後に全額振り込まれました。6月10日からスタートした第2回の追加申請に至っては、午前中にネット申請して、夕方振り込まれました。

怖いぐらいの速さです。多分チェックしていないんでないかと思うほどです。私の場合は、社員数がひとりのフリーランスで、旅行業ですから条件を満たすのに十分なのですが、それにしても速すぎで驚きました。「間違いを恐れるよりも、給付するという目的に対しシンプル!」これがいいのか良くないのかは別として、速かったということの事実だけをお伝えしておきます。

今回のコロナ対策で、素晴らしい成果をあげたのは政府だけではありません!それに協力した国民の一致団結した協力があったからこそ、成し遂げた結果だと確信しています。

1ヶ月以上にわたるロックダウン中でも、ほとんどの人々はルールを守り、よく耐えていたと思います。家の周辺だけ許された散歩の時でも、すれ違いは笑顔でソーシャルディスタンスをキープ。テディベアハントで子供たちを楽しませたりなど、Unite against COVID-19のスローガンで国民が一致団したとこからも、小さな国のコミュニティーの強さを感じました。

17年のニュージーランド生活で、このコロナ禍ほどニュージーランドに住んでよかったなと感じることはありません。コロナは大切なことをいろいろ教え気づかせてくれますね。

いいこと尽しじゃないよ

ニュージーランドの良いことばかりを書いてきましたので、「そんな良い国に住んで、自慢話かよ」と突っ込まれそうですので、少し補足しておきます。

私は日本で生まれ育ち、30歳まで日本で暮らしていました。歴史や社会学、文化人類学に興味がありますので、ある程度の日本の文化を知っているつもりです。前々回の記事でも書きましたが、私は日本が嫌いでニュージーランドに住んでいるわけではありません。できれば本当は、生まれ育った日本で暮らすのが理想なんです。

ただ、ニュージーランドという国に住んでみて、こちらの方が自分に合ってるなと思うだけのことなのです。

良いことばかりを書いてきましたが、この国に移住し、子供を育て、生活していくとはそれほど楽ではありません。ある程度の裕福な方で経済的になんの不自由もない方ならともかく、生活するにはこの国で働かなくてはいけません。英会話能力が低かったり、スキルや経験がないと、仕事もなかなか見つかりません。

言葉の壁に負けず、文化の違いも受け入れ、それを理解し対応していくのには相当の努力が必要です。自分だけ取り残されてる感や、言葉の壁での孤独感にどれだけ耐えたれるか。これまでの17年間のニュージーランド生活がバラ色だけではなく、相当辛い経験もあったこともお伝えしておきます。

お客様によく言われる一言「こんな素晴らしいニュージーランドに住めて、好きな仕事ができていいですねー」と言われ、私がいつも心で思うこと。

「自分が生まれ育った国を愛し、そこで幸せに住んでいる方が羨ましい」
「好きな国で好きな仕事をするために、様々な辛い思いや犠牲にしたこともあるんですよ」

ここまで読んでくださった方、最後までお付き合いいただきましてありがとうございました。私はただのツアーガイドですが、ガイドブックに載っているような情報だけではなく、この国に住む日本人の視点で感じたことを皆様にシェアしていけたらと思います。

そしていろいろな新しいことを発見していただくことによって、少しでも皆様にとっての幸せ広がるお手伝いができればと思っています。

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